分譲事業を立ち上げ、工事平準化により職人の囲い込みに成功した宮城県H社 - 戸建分譲総研

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分譲事業を立ち上げ、工事平準化により職人の囲い込みに成功した宮城県H社

今回は分譲事業を立ち上げ、工事平準化により職人の囲い込みに成功した宮城県H社についてご紹介いたします。まず、宮城県H社は東北全域で展開している住宅会社です。気候に合わせた性能の高い住宅を販売しており、近年は分譲受事業にも注力しています。

 

 

今回はどのようにしてH社が分譲事業をスムーズに立ち上げ積極的な仕入れが出来るようになったのか、について触れてみたいと思います。

 

当初の課題

 

下図はH社が抱えていた課題と目標、ギャップを埋める為の対策を記した図になります。順に説明致します。

 

 

H社は、大きく二つの課題がありました。一つ目が着工がバラつき職人が離脱する点です。H社は東北を中心に展開しており、冬場は気温が大幅に下がりますので施主様が着工を冬場に進めたがらない傾向にありました。結果1月〜2月の着工数が大幅に減少するのですが、そうすると職人が離脱していき、完工自体がままならなくなります。

 

この着工ばらつきを改善することが、職人を囲い込み安定的な完工を達成する上で緊急性の高い課題でした。二つ目に注文住宅事業の市場シェアに限界が来ている点です。商圏エリアである程度のシェアを獲得していたH社においてはこれ以上注文事業においてシェアを高めることは難しいと考えていました。

 

その上で利益率の高い新たな事業を模索していました。このような背景から「分譲事業の立ち上げを行うこと」に解決策を見出しました。

 

分譲事業の立ち上げに思い至った背景をもう少し説明致します。

 

図にあるように、当時は「冬場の着工が減る」→「職人が定着しない」→「棟数が平準化しない」といった負のサイクルでした。このサイクルを「冬場の着工が減る」→「分譲住宅で穴埋めする」→「職人が定着する」→「棟数が平準化する」といった正循環に切り替えることが最重要と捉えたのです。

 

 

取り組みの結果をまずお伝えすると下図のように1月〜2月の着工数が分譲宅地で他の期よりも増加し、職人の離脱が防げ、ばらつきの改善に至りました。

 

 

ここからはどのようにして分譲事業をスピーディに軌道に載せたのかを説明致します。

 

H社の取り組み

 

H社が行った代表的な取り組みは三つあります。「仕入れ戦略の策定」、「仕入れ判断の明確化」、「仕入れマニュアルの策定」になります。

 

順に説明してまいります。

 

仕入れ戦略の策定

まず仕入れ戦略の策定について見ていきます。仕入れに関しては、まさに分譲事業を立ち上げると同等のことになりますので、「誰に(ターゲット戦略)」「何を(プロダクト戦略)」「どのように(プロモーション戦略)」というこの三原則を押さえることが重要です。

 

 

H社の場合は「誰に」という観点において、ターゲット戦略を明確にしました。ターゲットについては対象になる人と場所があります。まず、場所においては、まず商圏内においても仕入れで勝負しやすいエリアを明確にしました。そして人においては、ペルソナを明確にし、価格帯や嗜好性を明確にします。H社では注文事業よりも年収が低い層をターゲットとして想定いたしました。

 

 

なお、ペルソナの考え方については下記の記事にて詳しく説明していますので併せてご覧ください。

 

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また、「何を(プロダクト戦略)」においては、大きく「コストダウン戦略」と「価格戦略」、「仕入れ戦略」と「付加価値戦略」があります。コストダウン戦略については、どのようにコストダウンを行うかになりますが、大きくは、”ボリュームディスカウント””業者の切り替え”、そして”工法によるコストダウン”を設定いたしました。

 

価格戦略に関しては、分類した対象エリアによって相場が大きく変わる為、エリア内の物件相場の調査を行い、適切な価格を設定いたしました。

 

 

また、価格帯については一つのパターンだけではなく、次点で狙うべきターゲットをサブターゲットとして設定することが重要です。仕入れ戦略はどのような仕入れを行うかを明記したものですが、H社では3つ設定しています。一つ目が、競合の戦略に合致しない物件を狙うこと、二つ目が、地位の高い土地を仕入れること、そして三つ目が、業者との関係性の強化です。

 

この三つが他社の仕入れと差別化する為に必要な要素と想定し、仕入れを行います。最後の付加価値は、建物自体の価値をどのように設計するか、になります。当時設定した付加価値要素は”外部へ建築家のデザイン力”、そして”2層〜3層設計”、”都心小区切り””気密・断熱”と設定いたしました。これらの付加価値は注文事業にて強みとしている要素を中心に検討することが重要になります。

 

このように仕入れを分譲における「事業戦略」として位置づけ事業設計を「誰に(ターゲット戦略)」「何を(プロダクト戦略)」「どのように(プロモーション戦略)」の観点で行うことが重要になります。

 

 

仕入れ判断の明確化

二つ目が仕入れ判断の明確化です。仕入れにおいては多くのケースが経営者や仕入れ担当の”目利き”によるものです。判断自体は形式知されておらず、属人性が高い領域になります。一方で属人的な仕入れを続けているとノウハウが蓄積されず、今後リスクになるのでH社では「仕入れ基準を明確にする」という取り組みを行いました。

 

下の図はH社が行った仕入れ業務構造です。

 

 

経営者や仕入れ担当がやっている業務において全て分解し、他者でも出来る領域については全て作業分担いたします。
また、経営者や仕入れ担当がやっている決済業務においても1件1件判断条件を明記したシートを踏まえて明文化し、標準化する体制を構築しました。

 

 

チェックシートは物件概要だけではなく、立地道路や特性、その他要因など、様々な情報を明記し、後々確認が出来る内容でまとめています。

 

仕入れマニュアルの策定

三つ目が仕入れマニュアル策定になります。

 

 

仕入れは究極的には「不動産業者との関係性」が全てと言えます。不動産業者と良好なネットワークを築く為にどのような訪問活動を行うか、が仕入れにおいては勝負となりますので、不動産会社との関係性を構築する為のマニュアルを策定いたしました。マニュアル上で重要なことは「数値目標を決める」ことです。

 

 

多くのケースでは「いい物件ないですか?」と不動産業者を無作為に回る傾向にありますが、本来は今後必要なPJから逆算して情報収集を行う数を目標設定することが重要です。一般的には1件のPJがある場合、必要な物件情報は200件と言われています。

 

ですからPJが5件ある場合は1000件の物件情報が必要になります。仕入れ担当が2人いる場合は500件の情報を各自どのように収集するかを考えた上で動く必要があるのです。H社ではマニュアルにこのKPIをまとめて実行体制を構築いたしました。

 

また、不動産業者に対するトークも必要です。関係性を考慮すると、「どのように依頼するのか」だけでなく「どのように断るのか」も重要です。せっかく紹介したのに無下にされた・・・と思われないようにマニュアル上で適切なお断りトークなどをまとめます。

 

 

合わせてアプローチの仕方についても明文化が必要です。不動産業者へのアプローチは従来のBtoCでなくBtoBアプローチになり、アプローチが全く変わります。具体的にはFAXを活用し、不動産会社に情報依頼をするケースなどでしょう。FAXを活用したマーケティングにおいてはメンバーが不慣れなこともあり、流れを明確に明記いたしました。

 

 

 

以上、今回は仕入れ強化についての事例をご紹介いたしました。現在注文事業を行っている会社にとっては、これから分譲事業が成長の鍵となっていくことでしょう。ですから、このような取り組みを行うことによって、安定的な仕入れの構築を行っていきましょう。